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松江家庭裁判所浜田支部 昭和63年(家)83号 審判 1988年8月23日

申立人 矢野昭彦

未成年者 王仁

主文

申立人が未成年者王仁を養子とすることを許可する。

理由

(申立の要旨)

申立人は、昭和57年9月19日未成年者の母である王玉清(国籍中国)と中華民国の方式により婚姻し、昭和58年3月23日以降肩書住所で未成年者とともに同居しているが、この際未成年者を養女として迎えたうえ妻とともに帰化申請して日本国籍を取得させたいので、申立人が未成年者を養子とすることの許可を求める。

(当裁判所の判断)

1  本件記録によれば、申立人は、○○市で○○業を営む株式会社の代表取締役であるが、前妻死亡後の昭和57年9月19日、未成年者の母である王玉清(国籍 中国)と中華民国の方式により婚姻し、昭和58年3月23日以降肩書住所で同女、その後出生した同女との間の子(長男)、前妻との間の子(長男、次男)とともに未成年者と同居してその監護養育に当つてきたこと、今後も引続いて未成年者と生活を共にし、実子と同様に監護教育していく考えであり、未成年者も当初は言葉と食事に馴れず、容易に日本での生活に適応できなかつたが、現在では家庭及び学校にすつかり馴染み、申立人を実の父親と思つていること、申立人としては、未成年者との養子縁組が認められれば、妻と未成年者の帰化申請をして日本国籍を取得させ、戸籍をすつきりさせる方針であることが認められる。

これらの事実によると、本件申立は未成年者の現在及び将来の福祉の確保とその向上を目的としてなされたものと認めることができる。

2  ところで、法例第19条第1項によれば、養子縁組の要件は各当事者につきその本国法によつてこれを定めるものとされているので(未成年者については、台湾を事実上支配している中華民国の法令をもつてその本国法と解するのが相当である)、申立人の本国法である日本国の法令及び未成年者の本国法である中華民国の法令のいずれによつても養子縁組の要件がみたされるのでなければ、本件養子縁組をすることはできないこととなる。

そこで、申立人と未成年者が各本国法の定める養子縁組の要件をみたしているかどうかについて検討するに、わが民法及び中華民国民法のいずれに照らしても、本件養子縁組の成立に障害となるべき事由は認められない(もつとも、もし未成年者が申立人の妻王玉清の嫡出の子でないとすれば、困難な問題を生じる。すなわち、上記いずれの民法によつても、配偶者のある者が未成年の者を養子とするには配偶者とともにしなければならず、例外として、昭和62年法律第101号による改正後のわが民法の場合には配偶者の嫡出の子、中華民国民法の場合には配偶者の子を養子とする場合はこの限りでないとされているので、もし未成年者が申立人の妻の嫡出の子でないとすれば、わが民法に則る限り、未成年者を養子とするには申立人と妻との夫婦共同縁組をしなければならないが、このことは直系血族を養子とすることを禁じた中華民国民法第1073条の1に牴触し、結局、申立人と未成年者との養子縁組は許されないことにならざるを得ないからである。本件記録及び同じ当事者間の昭和○○年(家イ)第○○号認知無効申立事件記録によれば、申立人の妻王玉清は、台湾在住の中国人高揚文と台湾流の婚約式を経て、半年後に双方の親、兄弟姉妹、親族、近所の人等出席のもとに台湾の習俗的な結婚式を挙げたこと、式次第については、祝宴の始まる前に出席者に紹介されたこと位しか覚えておらず、証人あるいは立会人がいたかどうかもよく覚えていないこと、しかし、戸籍法による結婚登記はせず、同人との間の子である未成年者の妊娠に気付いた後に実家に戻つて別居するに至り、1978年12月17日未成年者を分娩したことが認められるので、中華民国民法第982条第1項が結婚の形式的要件として規定する「公開の儀式」及び「2人以上の証人」のうち果して後者の要件を充足しているかどうか甚だ疑問といわざるを得ないが、たとえ同国民法上有効な婚姻ということができず、未成年者が非婚生子に当るとしても、認知を待たないで出生によつて生じる婚外親子関係の成立に関する準拠法は認知の要件と同様に法例第18条によるものと解すべきところ、申立人の妻及び未成年者の本国法である中華民国民法第1065条第2項によれば、非嫡出子とその実母との関係はこれを嫡出子とみなし、認知を要しないものとされているから、結局、未成年者はわが国法上も申立人の妻王玉清の嫡出の子ということができ、したがつて、この点は本件養子縁組の障害とはならないと解する)。

3  以上の次第で、参与員伊藤善正の意見を聴いたうえ、本件申立を相当と認め、主文のとおり審判する。

(家事審判官 安井正弘)

〔参考〕中華民国民法

第982条(結婚の形式的要件)

<1>結婚は、公開の儀式及び二人以上の証人があることを要する。

<2>戸籍法に従って結婚登記をした者は、既に結婚をしたものと推定する。

第1065条(任意認知)

<1>非嫡出子(非婚生子)が実父の認知(認領)を経たときは、嫡出子とみなす。実父の養育(撫育)を受けた者は、これを認知したものとみなす。

<2>非嫡出子とその実母との関係は、これを嫡出子とみなし、認知を要しない。

第1073条(縁組の要件-年齢)

養子をする者(収養者)は、養子となる者(被収養者)より20歳以上年長であることを要する。

第1073条の1(同前-制限)

左に掲げる親族は、これを養子とすることができない。

1.直系血族。

2.直系姻族。但し、夫婦の一方が他方の子を養子とする場合は、この限りでない。

3.傍系血族及び傍系姻族の輩分(世代)が不相当である者。但し、傍系血族の8親等以内でない者、傍系姻族の5親等以内でない者は、この限りでない。

第1074条(配偶者のある者の縁組)

配偶者のある者が養子をするときは、その配偶者と共同してこれを行うことを要する。但し、夫婦の一方が他方の子を養子とする場合は、この限りでない。

第1079条(縁組の方式-裁判所の認可)

<1>養子縁組は、書面でこれをなすことを要する。但し、養子となる者が7歳未満で法定代理人がないときは、この限りでない。

<2>7歳未満の未成年者が養子となるときは、法定代理人が代わって意思表示をなし、且つ代わって意思表示を受ける。但し、法定代理人がないときは、この限りでない。

<3>7歳以上の未成年者が養子となるときは、法定代理人の同意を得ることを要する。但し、法定代理人がないときは、この限りでない。

<4>縁組(収養)をするときは、裁判所の認可を得ることを要する。

<5>縁組(収養)に左に掲げる事由の一があるときは、裁判所は、認可を与えない。

1.縁組(収養)に無効又は取消の原因あるとき。

2.縁組(収養)が養子に不利であると認めるに足る事実のあるとき。

3.成年に達した者が養子となる場合に、その縁組(収養)が実父母に不利であると認められるとき。

(劉振榮、坂本廣身著 改訂中華民国親族相続法432、443、444頁から引用)

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